第43回 愛知県定時制通信制生徒生活体験発表大会
愛知県知事賞・中日新聞社賞・愛知県定通教育振興会賞受賞




出逢いをさがして
                 夜間部普通科 山本悦子

発表の写真  「あなたにめぐりあえて ほんとうによかった ひとりでもいい こころからそういってくれるひとがあれば」

 これは相田みつをさんの作品の中で、私が最も気に入っている文章です。人はこの世に生まれてから死ぬまでに、一体どれだけの人に出逢うのでしょうか。これだけ多くの人々が行き交い、すれ違いを重ねるその中で、今までに自分が出逢って、一瞬でも同じ時間を過ごしてきた人達というのは、実はものすごく貴重な存在なのです。もっと言えば、その人達がいたからこそ今の自分がある。大げさな言い方かも知れませんが、私はそう考えています。

 “夜間定時制高校へ通うこと”、当たり前のように中学を卒業し、周囲に言われるままに高校へ進学した数年前の私には、全く考えることもできなかったことでしょう。その頃の私には、余裕なんて言葉はどこにもなく、いつも誰かの目を気にして生きていた様な気がします。学生生活をずっとそうして過ごして来たので、高校二年になった頃にはとうとう疲れ果てて、自らの力で学校へ行けなくなってしまいました。一旦、学校という集団生活の場から離れて社会に出てみると、今までに見えなかったものや、新しい世界が見えてきました。この時期に多くの人と出逢い、色んな話を聞いて勉強したことが、とても良い経験になりました。そうした経験を遠回りにもしてきたことが、再び高校へ通おうというきっかけを生んでくれました。ここで、そのきっかけとなった一つの出逢いを紹介したいと思います。

 彼女とは、四年前に私が趣味で習い始めた合気道の道場で出逢いました。たまたま入門した日も同じで、歳も同い歳でした。彼女はとても明るく、人懐っこい性格で、しかもおしゃべりが大好きだったので、今までに色んな話をしました。たわいもない話で盛り上がったり、夜遅くまでお互いの悩み事を打ち明けて、語り合った時もありました。今思えば、彼女は私が社会人になってから初めてできた、何でも話せる同世代の友達だったかも知れません。

 知り合って間もない頃、彼女に言われた言葉で今でも忘れられない言葉があります。それは自分に高校を中退した過去があることを話した時のことです。私がひと通り話をし終わると、「話してくれてありがとう。高校をやめてしまったことに対して、悦子はすごく罪悪感を感じてるみたいだけど、そんなにも自分だけに非があるなんて思わないで。そりゃあ確かに、あんたにも悪いところがあったかも知れない。けど、周りの環境にも原因があったはずだよ。だから自分ばかりを責めないで。」そう言われて、私は自分の中にある後ろめたさみたいなものがスッと消え、気持ちがとても楽になったのでした。

 またある時、彼女はこう私に言いました。「私はね、悦子の良いところをちゃんと知ってるよ。ただあんたの場合、それが目立たないから周りの人には分かりにくいんだよ。」 そう言って、私を伸ばそうとしてくれたこともありました。

 彼女も私も、決して強い人間ではありません。とは言え、この世に真に強い人間など滅多にいないと思います。人は誰でも弱い部分を持っており、その弱さを自分で認識し、理解した上で、そこをカバーし、乗り越え、克服しようとする勇気こそが、その人の本当の強さにつながるのではないでしょうか? 私は、彼女にはそういった精神的な強さがあると感じ、彼女の生き方や考え方などから多くのことを勉強しました。それだけ、彼女は私の持っていないものを持っていたのでしょう。けれども逆に、私にはあるけれど 彼女にはない、私だけの持ち味もあります。つまり彼女は、お互いにお互いを高め合える“親友”として、いつの間にか自分にとってかけがえのない存在になっていたのです。もし、彼女との出逢いがなかったら、私が私らしくあることの素晴らしさになかなか気付かなかったことでしょう。

 実は、私が定時制の高校で頑張ってみようと決意した時にいちばん応援してくれたのも彼女でした。「高校生活をやり直したい。」そう決心してこの豊橋高校に入学してから、早いもので一年半が経ちました。途中で投げ出してしまった高校生活を再び取り戻したい。九年前にやり残してきたことを、何とかやり直したい。ただその一心で送ってきた、あっという間の一年半でした。“出逢い”をキーワードとするならば、豊橋高校に入学したこともまた 新たな出逢いの始まりでした。肩に力の入った私に、いつも暖かい言葉をかけて、気持ちを緩めてくれる先生方。年の差など気にせず、気軽に声をかけてくれるクラスメイト達。今送っている学校生活が、私の取り戻したかった通りのものかどうかはまだ分かりません。しかし、ただ一つ言えることは、今というこの時に、自らの意志で高校へ入学できて良かったということです。遅くもなく、早くもなく、きっと今だからこそ 頑張れるのだと思います。

 私は常に“出逢い”をさがし続けています。彼女との出逢いや、豊橋高校との出逢いがあったように、これからも様々な出逢いが、私を待っていることでしょう。その一つ一つが、私の大切な未来の宝物です。


 

(03/10/10)

夜間部に戻る